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大阪高等裁判所 昭和39年(ラ)292号 決定

抗告人 白山金作(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨ならびに理由は別紙のとおりである。

二  当裁判所の判断

(一)  当裁判所は、抗告人の本件戸籍訂正許可の申立は理由がないと判断するもので、その理由は結局原審判の理由につきるわけであるが、抗告人の抗告理由についてそれが理由のない所以を以下に敷衍説示する。

(二)  抗告理由第一点について、

抗告人および事件本人白山栄子、白山明男が日本に帰化し、日本の国籍を取得したのは昭和三九年五月七日付法務省告示に基くものであるが、その当時抗告人の先妻であり、事件本人らの母である田上春子はすでに死亡していたこと(昭和三六年五月一二日死亡)は記録上明らかである。もし同女が生存しておれば、右帰化のさい夫婦の氏を定め、その結果白山の氏を称することは可能であるが、すでに死亡し、婚姻も解消したものにつき、夫婦の氏を定めることはありえない。したがつて、帰化当時田上春子が生存しているものと仮定した場合の所論は、採用に由ない。

(三)  抗告理由第二点について、

本件は、田上春子が昭和二七年一月二八日抗告人と婚姻することにより、法上白もしくは白山の氏を、その死亡に至るまで称していたがどうかが問題になるのであつて、同女が法上の氏とは別に、事実上白もしくは白山の氏を名乗つていたかどうかは論外である。

抗告人は、昭和一五年朝鮮の創氏令により、白山の氏を名乗つてから今日まで白山妊を名乗つているというが、抗告人は前記帰化によって、日本の戸籍上白山の氏を称するに至つたもので、それまでの氏は白であつたことが、本件記録上認められる。

そうして、田上春子が、抗告人(当時の氏は白)と婚姻することにより、法上白の氏を称するに至つたものとする法的根拠は全くなく、むしろ、朝鮮の慣習に従つて、抗告人とは別氏の田上の氏をそのまま称していたものとみるのが至当である。

抗告人は、田上春子の外国人登録原票が白山こと白春子になつていることを根拠に、田上春子は白春子と名乗つていたというが、外国人登録は外国人で法定の要件に該当する者の申請に基づくのであつて、その氏名は必ずしも戸籍に記載された法上の氏名と一致するわけでないから、外国人登録原票の記載から、戸籍上の氏名を推認することはできない。

したがつて、この点に関する抗告人の主張も採用できない。

(四)  抗告理由第三点について、

抗告人に前記の如く、田上春子と婚姻する当時から朝鮮人であり、朝鮮では、夫婦の氏はそのいずれか一方の氏に限定されず、旧来どおり別々の氏を称する慣習であるため、右両名の嫡出子たる事件本人両名の父母欄には父白山金作、母田上春子と記載されているのである。右記載はあたかも日本人の父母が離婚した場合における子の父母欄の記載と類似するけれども、それは朝鮮における夫婦別氏の慣習に基づくもので、やむをえないものといわなければならない。そうであれば、右記載には抗告人が主張するような過誤はないから、この抗告理由もまた採用し難い。

(五)  抗告理由第四点について、

抗告人は、戸籍法一〇二条による帰化届を提出するとき、右事件本人の母の記載を白春子とすべきところを誤つて田上春子としたため、戸籍にその旨の誤つた記載がなされたというが、母の氏名が田上春子であることは前説示のとおりであり、この届出、したがつてこれに基づく戸籍の記載には何らの錯誤はない。したがつてこの主張も採用に由ない。

(六)  以上の次第であるから、抗告人の本件抗告を棄却することとし、民訴法九五条、八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判長 判事 金田宇佐夫 判事 中島一郎 判事 阪井{日立}朗)

抗告理由省略

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